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P&G事業責任者が語る、就活で気をつけたい「キャリアの落とし穴」とは

長き旅路を歩んできた有名企業のエグゼクティブ達が一堂に会し、「長く険しい旅路の数々」と「これから若者が歩むべき道のりの見通し」を熱く語ったイベント、en-courage Career Theater。当記事では、その貴重なメッセージをより多くの方にお伝えすべく、書き起こし、編集を行いました。今回ご紹介するのは、P&G Japan、長 祐 氏の登壇部分です。充実したキャリアを送っている長氏ですが、かつては自分のキャリア選びに失敗、思い悩んだ時期もあったと言います。そんな長氏の経験を踏まえて語られる「キャリアの落とし穴」と「より良いキャリアを歩むためのヒント」。今まさに就職活動というキャリア選択に向かう読者の方々には、ぜひ参考にしてくださいね。

今年も開催!Career Theaterとは?

2017年5月、キャリア支援団体en-courage主催「Career Theater」というイベントが開催されました。

そこでは「〜これからの人生の話をしよう〜」と題し、有名企業のエグゼクティブ達が登壇、「長く険しい旅路の数々」と「これから若者が歩むべき道のりの見通し」を熱くお話いただき、5月という時期ながら、1,000名近くの就活生に参加をいただきました。

en-courageでは、今年(2018年)も ・5/19(土)東京:ベルサール汐留 ・5/20(日)京都:京都国際会館 にて、そのイベントを開催します。

当記事では、開催を前に、昨年の講演内容の書き起こし・編集を行いました。今回ご紹介するのは、P&G ブランドマネジメント本部 ジャパン スキン&コスメティクス コマーシャルリーダー 長 祐(ちょう・たすく)氏の登壇部分。

充実したキャリアを送っている長氏ですが、かつては自分のキャリア選びに失敗、思い悩んだ時期もあったと言います。そんな長氏の経験を踏まえて語られる「キャリアの落とし穴」と「より良いキャリアを歩むためのヒント」。今まさに就職活動というキャリア選択に向かう読者の皆さんは、ぜひ参考にしてみてくださいね。

長氏の熱い想いをぜひ受け取って頂くと共に「Career Theater」の魅力にも触れ、ぜひ参加をご検討いただければと思います。

◇登壇者プロフィール <長 祐 氏(Tasuku Cho)> P&G ブランドマネジメント本部 ジャパン スキン&コスメティクス コマーシャルリーダー

2001年にP&Gジャパンに研究開発部門サイエンティストとして入社し、アジア全域のベビーケア商品の開発に携わる。2006年にマーケティング部門に異動し、北アジア地域のジレットマーケティングをシンガポールにて担当。2009年より日本を含むアジア地域のパンテーンのマーケティングをシンガポールにて担当。

その後日本に戻り、ジョイやSK2のブランドマネージャーを歴任し、現在、P&GジャパンのSK2を含む、スキン&コスメティクスカテゴリーの責任者を務める。

P&Gの事業責任者が語る「キャリアの落とし穴」とは

長:皆さんこんにちは。P&Gの長 祐(ちょう・たすく)と申します。本日はよろしくお願いいたします。

私は2001年に大学院を卒業しまして、研究開発職としてP&Gに入社をしました。研究開発職として5年間過ごしたのち、マーケティング本部という場所に移りました。そこでジョイ、ファブリーズ、アリエールなど様々なブランドのマーケティングに携わったのち、現在は化粧品事業に移ってディレクターとして働いています。

P&Gの日本法人の中には、6つの事業カテゴリーがあります。洗剤事業、ベビーケア事業、化粧品事業など様々展開をしておりますが、私はその1つ、化粧品事業の責任者をしております。

じゃあどんなことをしているのかというと、例えば、皆さんがご存知かなと思う商品として、SK-IIというブランドがあります。そのSK-IIというブランドを5年後、10年後にどうやって大きくしていこうか、ということに取り組んでいます。

SK-IIというブランドを消費者にもっと魅力的に感じてもらうためにはどうすればよいのか。お得意様とwin-winの関係を築いて長期的に成長するためにはどうすればよいのか。ファイナンスや投資をどのようにしたら、さらに成長していけるブランドになるのか。

ブランドを成長させるためにあらゆる分野のことをやらなければならない。まさしくブランドを経営する仕事だと思っていて、非常にエキサイティングな仕事だと日々楽しく仕事をしています。

とても楽しく良いキャリアを歩めているな、と思っているのですが、自慢はここまでにして。本日皆さんに対して何をお話しようかなと考えたのですが、実は私のキャリアには、1つおかしなところがあります。

P&Gという会社は職種別採用をしています。基本的には、マーケティング職のキャリアを歩む人は、マーケティング職として採用されて、そのままブランドの経営やビジネスの経営に移っていきます。

しかし、今ではブランドの経営をしている私ですが、入社の際は研究開発という職種で採用されています。今やっている仕事と研究開発の仕事は、ほとんど関係がないんですよね。

入社から5年間、研究開発に携わりましたが、これは実は、私のキャリアが迷子になってしまった期間なのです。

正確に言うと、そもそも大学院では私は分子生物学をやっていて、これまた経営とは全然関係がありません。だから、入社の2年前から既に迷子になっているし、さらに言えば大学選び、高校の理系文系選びから迷子になってしまっていたと。

素晴らしいキャリアを歩みたいと思っていたはずが、キャリアに迷ってしまう。どうすれば良いのかわからなくなってしまう。そんな「キャリアの落とし穴」にはまってしまっていたのです。

そんな「キャリアの落とし穴」には、私だけではなく、これからキャリアを歩んでいく皆さんもいずれ巡り会うことになるかもしれません。

本日は、私の経験を踏まえて「キャリアの落とし穴」について知っておいて欲しいなと思っています。また、危機感を煽るだけの話をしても仕方がないので、私のキャリアを通じて得たヒントのようなものを差し上げられたらという風に考えています。

30歳を目前に自分のキャリアに絶望。改めて自分のキャリアを考える。

長:私のキャリアを例にお話ししましょう。先ほどもお話ししたように、私は大学院で学んだ経験を活かして、P&Gという素晴らしい会社に入ることができました。そこで研究開発社員としてすごく頑張っていました。

するとある日、上司に部屋に呼ばれまして。上司は「長くん、あなたは昇進をすることになりました。おめでとうございます」と言うわけです。

そして、昇進をすることでいかに素晴らしいキャリアが得られるのかという話をしてくれました。

これからアジアへと出ていって、アジア全体で研究をしたのち成果を残せば、アジアから飛び出して、ヨーロッパ、グローバルでの開発ができるようになるんだと。

そして数十年後には、P&G全体の本社のあるシンシナティで世界全国の研究開発の指揮ができるんだと。そんな説明をしてくれて。

「どうだい、インスピレーションがあって、本当にエキサイティングなキャリアだろう」と言うわけです。

その時私は「やばい、全然エキサイティングじゃない」と思ってしまったんです。

当時私は30歳になる直前だったのですが、30歳になる直前に10年後の自分の未来を知って、それが全然魅力的ではないと感じて、すごくパニックになりました。

私も口では「いやあ、すごくエキサイティングですね」などと上司に返しておきながら、頭の中では、「一体この先のキャリア、どうしたらいいんだ...」と、混乱さえしていました。

そもそもこの会社には自己実現のために入ったんじゃないのかと。昇進という、喜ぶべき機会が与えられ、その未来も魅力的なはずなのに、その未来の自分と、自分が本来やりたい事がなぜこんなにも違うんだと。

なぜこんな過ちを犯してしまったのかというのを、そこで初めて考えることになりました。会社に、3日休みをくださいと話して、色々なことを考えました。

そして、私がキャリアに迷ってしまった原因をまとめると、3つの致命的なミスを犯していたということがわかりました。

そしてこの3つは、皆さんの中でも多くの人が犯しがちなミスであるとも思います。本日この話を聞いて、なんらか自分のキャリアについて参考にしてみていただければと思います。

多くの人が犯してしまう、キャリア形成における3つの失敗とは。

長:その3つの失敗とは、

 ・キャリアの目的が曖昧である。  ・会社選びの基準が曖昧である。  ・仕事への取り組み方が曖昧である。

ということでした。一つひとつ順番に説明しましょう。

まず1つ目の「目的が曖昧である」という部分。

私は大学院に入った頃から、研究者にはあまりなりたくないなあと思っていたんですね。研究者にはなりたくない。ちょっとビジネスに興味がある。じゃあ、いわゆる大学で研究をするのではなく、企業で研究開発をすれば良いんじゃないかと。

そして、できれば何かビッグなことがやりたいと。じゃあ研究開発の中でも、グローバルな環境で開発ができたら良いんじゃないかと。

本当は深く考えていないのに、「よし、これが自分の目的だ」というように思ってしまったんです。

さらに就職活動に際して、じゃあ面接で自分の目的をうまく話せるためにはどうしたら良いだろうと考えたり、自己分析で出てきたことをうまく目的に繋げて話そう、なんてことをやっていたら、ますますそれが自分の目的のように思えてきて。

結局、自分が考えたことに自分が騙されてしまったのです。本当はそんなにやりたくないことを、「これが自分のやりたいことだ」という風に錯覚してしまったのです。

結果として、グローバルな環境で開発ができる会社に入ることはできましたが、本当はキャリアの目的なんて全く明確になっていませんでした。

就職活動では、必ずと言っていいほど、「志望動機は何か?」「やりたいことは何か?」と聞かれます。それに答えるために、知らず知らずのうちに自分を騙してしまう。これは多くの皆さんが陥りがちなポイントです。

そして2つ目「会社選びの基準が曖昧である」。

会社を選ぼうと思っても、グローバルで開発を行っている所なんて無数にあります。もちろんP&Gという会社もそうですし、他の会社もそうです。

それで、どこの会社に行くべきかと考えた時に、そもそもキャリアの目的が明確ではないので、会社選びの目的も明確になっていませんでした。

研修がしっかりしている、素敵な人がいる、給料が高い、などなど、実は本質的にはそれほどキャリアにとって重要ではないことをキャリア選択の基準にして、それで会社を選んでしまう。

すると、さらに泥沼にはまってしまい、自分が素晴らしいキャリアを歩むために選ぶべき会社からどんどん遠ざかってしまいます。

最後に3つ目「仕事への取り組み方が曖昧である」。

実際に仕事に取り組んでみても、キャリアの目的がないので、そこには自分をどう育てようという意思がありませんでした。全ての仕事に対して、ひたすらがむしゃらに頑張るということをやってしまい、色んな事が満遍なく上手くなるけれども、どれ1つとして突出した強みにならない。

結果、何年も頑張って働いてきたは良いものの、自分のキャリアが全く不明確である。そんなことが起きてしまっていたのです。

私は29歳の夏にそんな状況に気付きました。大失敗してしまったなと。そこで色んなことを考えて、そのキャリアの落とし穴を突破しようとしたわけです。

自分の未来を具体的に想像し、より良いキャリアを作る。

長:では、どんなことを考えればいいのか?自分が素晴らしいキャリアを歩むためのヒントとして、私が考えたことをお伝えしたいと思います。

まずは、キャリアの目的についてです。先ほど、他のプレゼンターの方が「やりたいことがある人は手を挙げてください」とお話しされていましたが、皆さんあまり持っていらっしゃらない。

しかしこれは当然のことですよね。就職活動になって、いきなりやりたいことを探してと言われても、なかなか難しいと思います。

1つの簡単な方法として、10年後の自分を具体的にイメージする、ということをお勧めします。

皆さんは今、20代の前半ですね。じゃあ30歳になった時に、どんな自分になっていたいかを具体的にイメージしてみましょうと。これなら、やりたいことを決めてくださいと言われるよりは、幾分簡単なのではないでしょうか。

自分の先輩や、就職活動で出会った人。色々会った人の中で、この人にみたいになりたいなと思う人がいれば、自分の将来のイメージはすごくわかりやすくなると思います。

私も色々考えて、あまり見つからなかったので、本や漫画なんかも読んで、どんな人になりたいのかというのを探しました。そして最終的には、ちょっと定番かもしれませんが、司馬遼太郎の描く坂本龍馬がかっこいいなという風に思い、どうやったらこんな人になれるんだろうかと、考えました。

そして、さらに分解していくんです。何が自分にとって坂本龍馬のかっこいいと思う所なのだろうかと。

坂本龍馬は一言で言うと変革の人。攘夷、開国、鎖国だといった凝り固まった概念の中から新しい価値を見つけて、その価値を色んな人の頭の中に売り込んで皆を動かす。そんなリーダーシップで変革を起こした人なんです。

じゃあ、将来はそんな人になって活躍をしたいなと、考えました。

自分のなりたい姿が明確になると、会社選びの基準もとても明確になります。自分の目指すキャリア像を選ぶためにどんな会社、どんな職種を選べば良いのかが見えてきます。

私の場合は、変革を起こすことを期待されている仕事。価値を作る仕事。人と違う視点で物事を見て、人の心の中に価値を残す仕事。じゃあそれってなんだろうと考えた時に、それはマーケティングだなと。

そして、マーケティングの専門性だけではなくて、リーダーシップを持って自分で経営をしていける所はどこだろうと思った時に、例えばP&Gのマーケティングという仕事は、価値を作るということをベースに、自らリーダーとなってブランドやビジネスを経営をするという仕事じゃないかと。

そういった判断をして、このキャリアが良いな、というのが初めて決まってくるのです。

最後に3点目の、仕事への取り組み方。目指すキャリア像に自分自身を近づけたい、育てたいと思った時に、選択的に仕事をしているかということです。

私はマーケティングをベースにしたいわけですから、新しい物の見方や価値を探る、そういう力をつけるため必要があります。新しいブランドを作るプロジェクトのリーダーをやってみるなど、そんな仕事を優先的に選んで、自分を育てていきます。

リーダーシップを学ぶ時に、プロジェクトのリーダーをやることも勿論ですし、組織を作って皆を動かす力を育てたいと思ったら、採用活動に手を挙げて、人を見る力を養うんだ、といった仕事の選び方もあるかもしれません。

ともかく、闇雲に頑張るだけでは、突出した強みというのは身につきません。自分のキャリアの目的に合わせて、きちんと時間を使って、それを積み上げて強みとするということを常に意識しなくてはならないのです。

より良いキャリアを描くために、目的を明確に。

長:ここまで、キャリアの落とし穴にはまらないために、というお話をしてまいりました。

皆さん既にお気付きだとも思うのですが、一番大事なこと、キャリアを考える上での原点となるのは「自分の目的を明確にする」ということです。

皆さんもこれから会社に入ると、人生の8割を仕事で使うことになります。それなのに、仕事をしても自分がありたい姿には近づけない、将来のキャリアも全くワクワクしない。そんな仕事に人生の8割を使うのは、本当にもったいないと思いませんか。

仕事を通じての目的を明確に持っていないと、自分の人生を台無しにしてしまいます。

そして、その目的は、ビッグなことをやりたいんだ、日本のためになりたいんだ、そんな曖昧な目的ではなく、より具体的に。

自分はどんな人物になりたいのか、何を成し遂げたいのか。30歳になった時に、どういう仕事を、どういう役職でしたいのか。どんなスキルを身につけておくべきか。

そんな風に、具体的なイメージを持って初めて、自分の理想的な自己実現ができる、理想的なキャリアを歩めるという風に思っています。

キャリア選びというのは、自分の未来を作る作業、未来の自分を選ぶ作業です。

そこを履き違えてしまって、なんとなく曖昧な就職活動をするのではなく、明確に自分の目的を持って、素晴らしいキャリアを選んでもらいたいと考えています。

私からのメッセージは以上です。ご静聴いただきありがとうございました。