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「課題設定力」がイノベーションを起こす【山口周】

30年後の社会を支える「エリート」に不可欠な資質とは何か?その問いを、各界をリードする方々にぶつけていく「就プロ」のオリジナル連載。前回に続き、山口周(やまぐち・しゅう)さんにお話を伺います。前回は、自身のキャリアを交えながら「コンサルタントとは」について語った山口氏。今回は「イノベーション」について語ります。

課題を設定する力の有無で人生が決まる

―ほとんどのコンサルタントは途中で辞めていくというお話でしたが、その場合、その後のキャリアはどうなるのでしょうか。

山口:コンサルティングファームを辞めた人の中でも、その後楽しくやっている人と、ハッピーになれていない人がいますが、その違いはどこにあるのかと考えると、それは「何をやってもいいんだよ」となったときに、やりたいことを自分で作れるか、決められるかという点ではないかと感じます。

コンサルタントはクライアントから課題を与えられる仕事ですが、いったん外に出るとそうではなくなります。社会では権限が大きく周囲に影響を及ぼすポジションほど、課題は誰かに与えられるものではなくなります。

たとえば小さな組織の経営陣に入ったり自ら起業した場合、課題は自ら考えるべきものになります。自ら課題を設定をする力がなければ、何をしていいかわからなくなってしまうのです。

そうした人は辞めた後にまたコンサルに戻ったり、課題が上から降ってくるような、より大きな組織へ移ったりします。典型的な例が大企業の経営企画部などですね。

ただ、コンサルティングファーム経由であれば、普通の会社員が新卒から20年かかってたどり着くポジションに10年ほどで到達できるので、その意味ではお得感があるでしょう。

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理不尽さへの怒りが課題を生む

―課題の設定においては、何を心がけるべきでしょうか。

山口:課題とは、あなたがこれからの自分の仕事人生をかけて解決に挑めるような何かです。たとえばある問題について「5分で手短かにまとめて」と言われれば、たいていのコンサルタントは話せます。

しかし「そのテーマについて1時間、情熱とともに語れ」と言われたら、できる人は少ないでしょう。そういう情熱を傾けて語れるようなチャレンジの対象を持つことができるのか、ということです。

解決すべき課題を外から与えられるとは、進むべき道を示してもらうのと同じです。その状態に慣れきってしまうと、与えられた課題なしでは歩けなくなってしまいます。

よすがのないところでどちらへ向かって進むのか。その人にとって唯一無二の課題を設定するのは、「世の中への怒り」がないと難しいのではないかと思います。

怒りとはここでは、「世の中の理不尽に対する憤り」ということです。「世の中はこうあるべきだ」という価値感がまずあり、実際の世の中がそうなっていないという認識があれば、そこに怒りが生まれます。

その怒りから前に進むエネルギーが生まれてくるのです。それは「世の中はこうあるべきだ」という本人の価値観・世界観がしっかりしているほど強くなってきます。

元マッキンゼーの尾原和啓さんが『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』という本を出しています。

「経済的インセンティブだけでは仕事に対するエンジンがかからない人が大勢いる。最近はとくにそうなってきている」という話で、ぼくも賛成なのですが、「おそらくそういう人は昔からいたはずだ」とも思うのです。

ただ、そういう人をうまく使う仕組みがかつては存在しませんでした。社会貢献やボランティア活動に投資が向かうためのシステムがなかった。今はそうした装置ができつつあるので、経済的成功がインセンティブではない人たちにも活躍の場が出てきています。

数字いじりから課題は出てこない

―課題設定を行う力は美意識と関係しているのでしょうか。

山口:必ずしもそうとは言えません。絵画を鑑賞するための美意識と、その人の生き方を決める美意識は同じものとは言えないでしょう。

一つ言えるとすれば、課題はその人の価値感から生まれてくるものであって、その価値感とは突き詰めれば「好き嫌い」に辿り着くということです。

好き嫌いという感情は、数字の操作から出てくるものではありません。言い換えれば、数字をいじり、理屈で考えているだけではその人にとって本当に核心的な課題設定はできないということです。

問題は、ビジネスマンの多くがそうした自分の核心となる価値感や美意識に目を向けず、状況対応的なテクニックに囚われているということです。コンサルタントはとくにそうした傾向が強いのです。

コンサルティングでは何らかの客観的な物差しを用い、数字に直して企画の是非を判断しなくてはなりません。プレゼンの場でA と B という2つのプランがあったとき、もしコンサルタントが「ぼくはなんとなく B が好きです」などと言っていたら、これは確実にクビになってしまいます。

コンサルタントの多くはそのために必要な物差しを使う訓練を受けています。それに当てはめて、「この企画は御社のコンピテンシーに80%フィットしています」といったような言い方をして、新しい事業を提案するわけです。

こうした数字合わせのようなコンサルティングのやり方にどこまで意味があるのか、ぼくは疑問を持っています。それによってうまくいかない新規事業が量産されるのを目にしてきたからです。

ある大手企業は、さる有名外資系コンサルティングファームに毎年数十億ものフィーを払って未来予測をさせ、新規プロジェクトを企画させていました。

出された企画が全部でいくつあったか知りませんが、わかっているのはそれがことごとく失敗したということです。

一応「うまくいきそうだから」という理由で出された企画が、なぜ一つとしてうまくいかなかったのか。結局それは、心からの情熱をもってその新事業をやり抜こうという人がいなかったからでしょう。

上の人が「何か新規事業を立ち上げなければ」と言うので、そのご要望に応じて考え出された新規事業とは、まさにミッションオリエンテッドかもしれませんが、現実にはまったくうまくいかない。

「この事業だったら今の本業に近くて土地勘もあるし相乗効果もあるだろうから、たぶんうまくいくだろう」というような新規事業より、むしろもっと好奇心駆動型の、「好きで好きでどうしようもないから、どうしてもこの事業をやりたい」という強いパッションで始めた事業のほうがうまくいくものです。

イノベーションも課題解決から生まれる

山口:日本ではしばらく前から「イノベーション」という言葉が大流行しています。しかしイノベーションとは本来、目的のための手段のはずです。

解決すべき課題があり、そのためには従来までのやり方では無理なので、まったく新しい方法を考え出した。それがイノベーションで、世の中の大発明で「イノベーションを起こそう」と思ってなされたものなどありません。

みな目の前の課題をなんとか解決したいと願い、必死で考え、新しい解決方法を見つけ出し、結果としてそれが大発明と評価されるようになったのです。

課題を解決することこそが真の目的であり、イノベーションのスタートラインも課題を設定することにあるのです。ですから解決すべき課題を設定できない人には、イノベーションを起こす力もありません。

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