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VCが語る、優れた起業家・事業家の素養

2018年1月14日、株式会社LIFULLが主催するイベント「LEAP」が開催されました。今回はその「LEAP」の1セッション「VC(ベンチャーキャピタル)とCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が語る投資基準」の内容をお届けします。登壇したのは、500 Startups Japanマネージングパートナー澤山陽平さん、株式会社iSGSインベストメントワークス代表取締役/代表パートナー五嶋一人さん。数多くのスタートアップを見てきたお二人に、最近の事業の領域やチームの在り方など幅広くお話しいただきます。

ベンチャーキャピタリストの投資基準とは

小沼:続いて投資基準の話に移りたいと思っています。お二人とも様々な経験をしていらっしゃるので、恐らくそれぞれ投資の戦略やポリシー、キャラがあるのではないかと思っています。 ですので、投資しようと考える際に見ているポイントや、実はここが大事だというポイントなどのお話を伺えればいいなと思います。

五嶋:500 Startups Japanさんと弊社は、ファンドの規模や立ち上げ時期が大体同じということで、すごく仲が悪いんです(笑)

というのは冗談ですが、同時期にファンドを初めて、お互い数十社に投資をしているにも関わらず、投資先はほとんど被っていないんです。海外で1社、国内では先程のsoucoさんのみです。 恐らく、我々と澤山さんの投資基準は結構違うのだろうな、と思っています(笑)

僕らは、特に設立から間もない、いわゆるシードからアーリーステージとされるような若い会社さん投資については、成功したときに100倍、1000倍の価値になってくれるといいなという意味合いで投資をしています。すると、10社中9社失敗しても1社が100倍になればリターンがある。

ただしこれは「失敗してもいい投資」があるわけではなく、リスクは取るがすべての投資先が大成功すると信じて投資している、ということです。

なので、ポートフォリオしての「成功確率」みたいなものは、あまり意味がないのかもしれません。特に若い会社さんだと、「当たればでかい」みたいなところを狙っている投資が多いですね。

そういう前提なので、経営者としてもチームとしても、完成している状態はあまり求めていなくて、どちらかというと未熟な人、足りないところがあるチームに投資をする方が、ファンドとして大きなリターンが期待できる、投資価値があると思っています。

二人のVCが語る、優れた起業家・事業家の素養

五嶋:ただ、投資をするかどうか考えた際に、僕が観察しているのは、起業家が自らの欠点をきちん欠点だと認識していること。「自分はこれが足りていないのでサポートが必要だ」と言える人。そういう人が成長しますね。

他には、聞いたことをきちんと行動に移せる人。 簡単なことに聞こえるかもしれませんが、経営者・事業家の素養としては、大事なのかなと感じていますね。

澤山:我々も、初期の実績を見てみると、確かに20社に1社くらいしか成功していません。

我々は、企業や国からお金をお預かりして投資ファンドを組成しています。そのお金はもちろん増やしてお返ししなくてはなりませんから、最低でも100倍になってくれるような会社にしか出せないのは全く一緒ですね。

五嶋さんが最後におっしゃっていた「素直かどうか」というのもすごく大事にしています。

僕らもアクセラレーターとして経営についてのメンタリングをした際に、その前と後でどう変わったかというのをすごくチェックしています。

メンタリングを担当したメンターに「話してみてどうだった?」と確認し、きちんと教えを聴く態度があったかということをチェックしています。やはり、先人の教えを素直に受け取れる人の方が、確実に成長していきますから。

五嶋:「変化率」って大事ですよね。初めてあった時にダメでも、その次に会ったときにどうなっているのかというところです。

澤山:そういう意味でいうと、「行動が早いかどうか」が結構大事だと思っていまして。

少し前に、新しい保険会社を作ろうとしている「justInCase」というベンチャーに投資しました。

その社長に初めて会ったのは2年前の11月でした。TechCrunch Tokyoというイベントで会って、その時は「こんなことをやろうと思っているんです」っていうプレゼンだけの状態だったんですね。

その人はアクチュアリー(保険数理士)という、ちょっと特殊な資格も取られていて、やる気もすごくある方だったので、いろいろとアドバイスをしました。

その一月半後くらいに再度お会いする機会があったのですが、その方は、iPhoneのアプリのプロトタイプを作り、それを友人10人ぐらいに使ってもらってデータを集めて、そのデータをもとにスマホのガラス割れ保険が本当にできるかどうか、っていう実証実験を始めていたんです。

これだけでも、すごいなと感じると思うんですが、その方は、ミーティングの最初に「すみません。45日も掛かってしまいました!」って言ったんです。

この「45日も」というのが本当にすごいなと思いまして。色々プランを考えている人はいると思いますが、45日でどこまで形にできるかにはすごく差がありますよね。その人のスピード感と、そのスタンダードに対して「あっ、この人すごいな」と思って、すぐに投資しました。

そういう行動力って結局「学習する気持ちがあるのか」「今後もどんどん吸収できるのか」「スピード感を持って動けるのか」という証拠のようなもの。私はすごく好きですね。

五嶋:行動力がすごい起業家では、がんから復帰した女性の起業家がいらっしゃるんですが、とにかく行動力がすごいんです。

ご縁をいただいて我々に相談に来てくださったときには、インターネット通販で、入院患者の人に渡す御見舞用の商品を売ります、っていう商売をやっていて、この商売大丈夫か?なんて思っていたんですが(笑)。

僕らと彼女とで一緒に考えて、「実際に病院の中に店を出してみたらどうだろうか?」となったんですが、3ヵ月後ぐらいには、日本屈指の大学病院と、関東地方の大病院に店出しました、って(笑)

すごい行動力ですよね。

詳しく話を聞いてみると、お父さんと一緒に大工仕事をしてお店のワゴンをつくり、それを軽トラで病院まで運んで商品を売ったりしてる(笑)

ただ、売っているものは単価が数千円の前半くらいで、生活雑貨とかアパレルのものだったので、もっと改善ができるんじゃないかと思い、「500円ぐらいの乾燥ナッツとか、通りすがりでパッと買えるものもレジ横に置いてみては?」という話をしたら「なるほど、たしかに!」と。

で、次の日には、「築地に行ってナッツ買ってきました。今から置きます」と連絡があり、本当にすごい行動力だと思いました。

もちろん失敗もありますが、やっぱりこういう人が、どんどん行動して、どんどん学習して、どんどん事業を良くしていきますよね。

小沼:そういう方は学びが早いですよね。実験して、学んで、これは駄目だ、これは良かった、と。

五嶋:そういうのってやっぱり僕らも応援したくなるし、話をしていても楽しいですよね。

澤山:その人たちは、失敗することや、怒られることを苦にしないですよね。

五嶋:起業家には「自分で動いて、自分で失敗して、また自分で新しくチャレンジする」っていう、「自己PDCAを回せる力」・「行動力」・「折れない心」の3つが大事かなと思っています。

「怒られても半笑いで聞き流す」と「素直さ」って、相反するところなんですが(笑)、その両方をバランス良く持っていることがすごく大事だと思いますね。

人を巻き込む力が重要

澤山:また、僕らの場合は、他にもいくつか面白いところを見ていたりします。

一つは「ライカビリティー(Likability)」というもの。何かと言うと、その社長が「いろんな人に好かれそうか」「いろんな人を巻き込めそうか」ということを指しています。

ただ、これは社長ではなくてもよくて、チームの中に一人そういうやつがいればよいと思います。

五嶋:巻き込めるって大事ですよね。

澤山:実際に起業・事業を進めている方は痛感していると思うんですけれど、自分たちだけでできる事って、たかが知れているんです。いろんな人の助けを借りなくてはいけない。

僕もそれこそ500 Startups Japanを立ち上げたときに、プレスリリースを書かなきゃいけないけれど全く書き方が分からないので、もともと起業していた友人に相談したりしました。

巻き込み方は人それぞれなんですが、そういうことがパッとできるかどうかが大事だと思っています。色んな人に好かれるタイプや、憎めないなこいつ...みたいなタイプかどうか。

社長の仕事の一つに「お金と人をどれだけ捕まえてくるか」という重要なものがあります。その部分がかなり重要になってくると思っています。

五嶋:僕らの元の投資先で、既に株式は売却したんですが、「Gatebox」っていう会社がありまして、この会社が作ってるのは簡単に言うと、初音ミクと一緒に暮らしたい!という願望を実現するためだけにスタートしたプロダクトなんです(笑)。

そこの代表の武地さんとは、彼が会社をつくる前から付き合いがありますが、その頃から突き抜けていて、とにかく「初音ミクと暮らしたいんです」しか言っていない(笑)

でも、いよいよ起業しようとなると、その強い想いをずっと伝えているからこそ、人がどんどん集まってくるんです。

だんだんと、有名大企業のエンジニアを辞めて入社してくれる人も増えてきて、株式を売却したときは、最初に投資したときから1年ちょっとで、時価総額は十数倍になっていました。

人を惹きつける魅力は、見た目でもスペックでもないですよね。想いを言語化して、伝え続けて、人が集まってくるかどうか。 僕らの投資先を見ると、胸を張って「みんな変な人です」と言えます(笑)。愛すべき変人だと思っていて、そういう人が僕らの投資先としてマッチしているのかなと思います。

小沼:「こいつ諦めなさそうだな...」と感じる人は、結構評価高いですよね。この人は何があっても続けるだろうな、と。壁にぶつかっても成し遂げる力があるかどうか。

五嶋:うまくいくかは分からないけど、「この人ならどうにかするだろう」っていうのはありますよね(笑)

「行動力」は優れた起業家に共通する素養

小沼:他のエピソードで面白かった、楽しかったと感じる取り組みや、会った起業家の中で思い出に残っているようなエピソードはありますか?

五嶋:iSGSのファンド第一号の投資は、トイレにセンサーをつけて、毎朝特別なことをしなくても、尿の成分を測って健康状態を測定できるサービスを提供するサイマックスというベンチャー企業なんです。

そこの経営者なんですが、彼女はお母さんが病気になられたことをきっかけに、そういった病気を予防できる仕組みを作りたいという想いから起業されました。実は最初は尿ではなくて、血を検査しようとしていたんです。

その方は、大学は文系の学部を卒業していて、サイエンティストでもエンジニアでもないんですが、なんの縁も所縁もない大学の研究室に入り込んで、そこで自分の血を採って自分の血で研究していたらしいんです。

けっこうな時間を費やして、ようやく測定できるようになったので、友達に使ってもらって感想を聞いた。そうしたら、「血を採るのが面倒臭い」っていう意見が多かったそうなんです。 で、「だから、すぐにやめました」って(笑)。

それまで積み重ねてきたものは、なかなか手放し難い、辛い判断だと思うのですが、お客さんのフィードバックを聞いて、「日常生活の中で負担なくデータが蓄積できる」という目的が達成できないと判断し、すぐやめた。 ちゃんとユーザーさんの声を聞いて、柔軟に対応できるのも凄いですよね。

小沼:澤山さんはいかがですか?今までお会いした中でこの人はちょっと変だよな、でも俺は好きなんだよな...みたいな方はいらっしゃいましたか?

澤山:最近投資をしたのが「テレイグジスタンス」っていう領域にチャレンジしている「GITAI」というベンチャーでして。この人はちょっと良い意味でおかしかったですね(笑)。

その人は別にロボットの専門家でもなんでもないんです。それどころかエンジニアでもなんでもなかったんですけど、思いついたらとにかく行動だと。

最初のロボットのプロトタイプは、非常に荒削りなロボットだったんですが、とりあえず作ると。

でも、それをどんどん3代目、4代目、5代目って繰り替えしているうちに、どんどん良いロボットになっていく。それが認められていってすごく大きな投資を受けることが決まったりしました。

そういう風に、とにかく行動・改善をしていくうちに、認めてくれる人が増えて動き始めているというサイクルがありますよね。

結局、始めたときにどれだけのスキルがあるかっていうよりは、それに対する熱意だったり、どんどん物事を進めていける行動力のほうが重要だったりします。

五嶋:本当に何もできない人でもいいんですよね。投資先の会社にそういう人がいます。

やることがないときは掃除でもなんでもやって、とにかく朝から晩まで働いているんです。それを見てエンジニアの人たちが集まってくる。本人は何も特別なスキルがあるわけではないけれど、集まってくる人は本当に優秀な人たち...ちょっと謎ですよね。

iSGSと500Startups Japanさんが一緒に投資をしている「souco」の代表の中原さんは、会社を辞めて起業をされるとき、僕のところに「起業したいので話聞いてください!」と来てくれました。

詳しく話を聞いたうえで、「これはまず倉庫を貸してくれる会社と組む必要がある、それも大企業がいい」「事業が成り立つかの検証をいっしょに回せるパートナー企業が必要」という話をしたあと、たぶん1ヶ月も経たないうちに、「大手の新聞社さんにパートナーになっていただきました」って帰ってきたので、「ほんとかよ!」って(笑)

小沼:実績もなんにもなかったわけですよね?

五嶋:なかったですね(笑)

小沼:でも、そんな大きなところを巻き込んできてしまうと。

澤山:突然大きなところを巻き込んで来るんですよね。彼らみたいな人は。

五嶋:そうなんです。昨日も話をしたのですが、「居酒屋で飲んでいて、隣のおっさんと名刺交換をしたら協業ターゲットの大企業の専務さんだったんです」とか言っていて。

それで「明日打ち合わせに行ってきます!」みたいな...。よく分からない謎の巻き込み力ですよね。

小沼:すごく面白いですよね。そういってどんどん行動して、次々事業を進めていくことが大事なんですよね。

澤山:そうですね。スタートアップは、計画通り行くことなんか絶対にないですからね。

計画をすごく熱っぽく語るっていうのは大事かもしれないんですが、やってみないと分からないです。

計画を語るよりはこれまでどんどん動いてきたことを伝えてくれると、この人なら絶対にやり遂げるだろうなって思いますよね。

五嶋:計画で言うと、iSGSは事業計画を精緻に作ってもらっていて、数字もこだわるんです。ただ、それが外れたとしても、外れたこと自体については、僕らは一切責めません。

事業計画とか、売り上げって手段でしかない。ひょっとしたら利益ですら手段だと思っています。

世の中をこういうふうに変えたいとか、世の中にこういうサービスをたくさん届けたいという手段としての利益。

もちろん、利益がないとやりたいことはできないので、そういう点でも数字にはこだわりますけどね。

計画通りにいかないこと自体は問題じゃなくて、なぜ計画通りいかないのか、それを受けてなにをどう変えるのか、という「はずし方」が問題なんです。