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エンカレ創設者・出谷氏が法政大学「ライフキャリア論」で特別講義【前編】

5月20日、法政大学キャリアデザイン学部・田中研之輔(たなか・けんのすけ)教授の「ライフキャリア論」特別講義に、キャリア教育支援NPOエンカレッジの創設者であり、株式会社Scoville代表取締役CEOの出谷昌裕(でたに・まさひろ)氏が登壇した。 設立からわずか6年でエンカレッジを日本最大級のキャリア教育支援団体にまで育て上げ、現在、株式会社Scovilleの他にも4社で取締役を務める出谷氏のライフキャリア論とは? 約300人の学生を前に、田中教授とこれからのキャリア教育に向けて白熱した講義を繰り広げた。その講義内容を前後編に分けてお届けする。

25歳で覚えた強烈な違和感

田中研之輔先生(以下、田中):この授業はライフキャリア論入門です。特に1年生、2年生にとっては入門科目になります。今年も全体の90分のうち、60分くらいはゲストと一緒になるべくワークをやってもらうということで、今日は出谷さんをお迎えしました。

あとで自己紹介をしていただきますので非常に楽しみなのですが、比較的身近なお兄さんモデルと言いますか、身近だけど、こんなにぶっ飛んでいて、色々なことができるんだというヒントをみなさんに伝えたいと思って、今日、お時間をいただきました。

インターンとか、起業とかに向けて、何人かすでに動き出している人もいて、今年もいい流れなので、そういう選択肢を取る人には、とても参考になると思います。

そのような話もしていただきながら、後半は「キャリアアンカー」と「キャリアプランニング」のワークを、出谷さんとやります。それでは、出谷さん、よろしくお願いします。

出谷昌裕氏(以下、出谷):こんにちは。私、出谷と申します。まず、簡単に略歴からお話しさせてもらいます。

私は、関西の神戸出身で、京都大学に入学しました。そこでは化学を専攻しまして、短い間でしたがそれで特許をとるくらいゴリゴリ研究していました。

ところがある日、雷に打たれたみたいに「あれっ」と思ったのです。試験管を眺めながら、本当に突然だったのですが、「俺、ずっとこうやって試験管を見て一生過ごすのかな」と。

そのとき25歳だったのですが、どうしても「違うな」という違和感を抑えることができなくなっていました。

「価値」を生む事業そのものを手がけたくなった

出谷:そこから、これまでの人生プランを全部変えて、ビジネスの世界、ビジネスを推進していく道に進むことになりました。私自身の就職活動は、総合商社なども内定をもらったのですが、コンサルティング、セールスやマーケティングなど花形と言われる職業も必ず「プロダクト」がベースになる。

つまりその根幹になる「事業」そのもの、ビジネスとして成り立つ「価値」そのものをつくることに、急に目覚めまして。いきなり意識が高くなったんです(笑)。

それでまず、一部上場のメガベンチャーに就職しました。

そこで働いた後に、転職して上場会社の子会社の起ち

上げに携わり、その会社が外資系のチャットツールの会社に売却される手前までやって、そのまま今の会社を起ち上げました。

そういうわけで、事業開発やマーケティングなど、かなり幅広くなっていますが、私の専門は、今日のテーマでもある「人材のキャリア開発」と、もう一つはAIやIOTといった、「情報テクノロジー」になります。これら両方を、専門として持っているという感じです。

キャリアとしてはかなり短期間に登り詰めましたので、自慢話に聞こえてすごく嫌な奴だと思われるかもしれませんが、後半でしっかりと巻き返すので最後までお付き合いください(笑)。

自分の手でキャリアデザインをして欲しい

出谷:私の会社のグループ会社でHR部門の母体になっているエンカレッジは、全国47都道府県、73大学に支部を置く、日本最大級のキャリア教育支援NPOです。

大学4年生を中心に1500人くらいいます。1500人というと結構大きな企業と同じ規模になるのですが、それを大学生だけで自立的に運営している組織になります。

このエンカレッジを、私が大学院生だった2013年につくりました。今年はだいたい5万人くらいの会員が、こういう大学の中だとか外の会場で、さまざまなキャリア教育の活動を進めています。

さきほど言ったように、日本最大級のキャリア支援NPO法人で、もちろん上位校では最大のシェアです。自分の手で自分のキャリアを築き上げていく喜びを伝えたい。そんな想いが根幹にあります。

私の母校である京都大学では、文系就活生の約8割が活用しているサービスです。東京大学でも5割くらいの学生が使っています。ほかにも北海道大学で約8割、九州大学で約5割が使っています。

私立大学も、早慶からMARCH、関関同立ふくめて全国で活動していますので、みなさんも、就活をはじめるときは、ぜひ使ってください。

田中:エンカレッジを活用すると、具体的にどういうメリットがあるかということを教えていただけますか?

出谷:2つあります。1つは専属の先輩が1人ついて、マンツーマンで、「自分の人生をどういうふうにしていきたいのか?」といったコンサルティング、カウンセリングから、就活に関するスキル。例えばES(エントリーシート)添削まで、色々手伝ってくれます。

もう1つの活用法として、運営側にまわるというのもあります。NPO法人で大学ごとに支部があるので、そこで会社経営に近いような経験ができたりします。もちろん、法政大学にもあります。

仕事の相手も仲間も「日本人」ではなくなる

出谷:(少し話が逸れてしまったので、戻しますと)私の会社の話なのですが、いちばん特徴的なことは、エンジニアに関して社内の公用語が英語だということです。現在社員の8割が海外のエンジニアです。なので、日本語ではコミュニケーションがとれません。

AIとかIOTなどといった、専門性を持った人を世界中から探して採用しています。日本人のエンジニアも採用しているのですが、基本的には海外の人材が中心です。

どのようなメンバーとやっているかというと、フランスのスタートアップ企業でCTO(最高技術責任者)として3年くらい従事していた人が、今うちの会社でAIの開発をしています。そのほかにも、イギリスの大学で准教授だった人が、UI/UXデザイナーとして働いていたりします。フランス人、イギリス人、アメリカ人、オーストラリア人、ブラジル人、ベトナム人と、かなり色々な国から来ています。

覚えておいて欲しいのですが、みなさんがこれから戦っていく人、22歳とか、23歳とか、30歳になったときに、一緒に仕事したりとか、戦ったりする人は、おそらくもう日本人だけではありません。

シャープや日産などがわかりやすいのですが、日本の企業はどんどん海外に買われて外資系と言われる、本社が海外にある会社は今後どんどん増えます。また、日本の市場自体は縮小し続けていて、日本企業は海外で戦えないとやっていけなくなる可能性も高い。

君は「AIって何?」という質問に答えられるか

田中:我々文系の人間からすると、AIという言葉は耳にはするのですが、具体的にはイメージできないところがあります。せっかくの機会ですので、簡単に説明していただけますか?

出谷:そうですね。「そもそもAIって何?」というところから説明しましょう。簡単に言うと、人間の脳みそに似せて作られたコンピュータ、といえば分かりやすいでしょうか。もちろんまだ発展途上で人間の脳みそには遠く及ばないのですが、いくつか事例をあげて説明します。

たとえば目の機能。皆さん、どこかで会員になるときに名前とか、住所とか、電話番号とかを申し込み用紙に書いていると思います。これまではこういった申し込み用紙に記入された情報を、事務員がエクセルとかに打ち込んで、その会社が使っている基幹システムに情報を登録していました。

これらをすべて手作業でやっているわけですが、これからはそういう仕事が基本的にはなくなります。

その代り、申し込み用紙そのものをカメラで撮って読ませます。それだけで、そこに書いてある情報を自動的にデータベースの中に入れてくれるようになります。さらにそのデータを使ってどういう処理をするのかまで全部自動的にやってくれるので、今後人が要らなくなる可能性があります。

その他、監視カメラの動画を見ている仕事など、人が目で見て判断する、ということをコンピュータがやってくれるなどの例も挙げられます。

出谷:もう1つ別の例を挙げると、レジ打ちです。すでにアマゾン・ゴーでやってるので知っている方も多いと思いますが、これからはレジがなくなると思ってください。いまは、レジのおねえさんに商品を渡して、ピッピッピッピッとバーコードを読んで、金額を確認してお金払っています。

これが今後どうなるかというと、商品を取ってお店を出るだけで値段を全部計算してくれるようになります。そしてSuicaみたいなアプリから自動的にお金が引き落とされて、それで終わりというシステムです。

こういう世界が、おそらく5年以内に日本でも複数店舗で出てくる可能性が非常に高いです。私たちの会社でも、今それを研究しています。

田中:コンビニのアマゾン・ゴーも、カメラですか? 

出谷:カメラです。法政大学にもコンビニがありますが、そこのパンコーナーにたしか「北海道蒸しパンケーキ」があったと思うのですが、その「北海道蒸しパンケーキ」を手に取ったとします。するとカメラが認識して、「北海道蒸しパンケーキ」が1つ売れたという状態になります。

田中:移動を検知するのですか?

出谷:色々な検知の方法があって、そこに「あるべきものがない」という検知もあるし、ここに「あったものが移動している」という検知もあります。今は目の機能でしたが、耳の機能だったり、手の機能だったり、判断する脳の機能だったり、いろんな機能が様々なレベルで研究されています。

田中:あともうひとつ、いいですか? UI、UXという言葉もよく聞くのですが、いい機会ですので、何がUIで、何がUXなのかを解説していただけますか? (学生に向かって)みんなちゃんとメモしてくださいね。3年、4年になると当然知っていなければならないことなので。

大学生なら知っておきたいUX・UIの基本

出谷:UIは、USER INTERFACE(ユーザー・インターフェイス)の略になります。ユーザーとはアプリを開いているみなさんのことで、インターフェイスというのは「界面」という意味ですが、わかりやすくいうと「接点」です。みなさんがアプリを開いた際に、実際に接点となる画面の見た目、見えているもののことを言います。

大枠でいうとデザインの世界に含まれるものです。みんながアプリを見て「見た目がキレイだね!」というとき、ぼくらは、「UIいいね!」と言っています。

UXは、USER EXPERIENCE(ユーザー・エクスペリエンス)の略で、みなさんがアプリを使うときの「体験」を指します。みなさんも、きっと身に覚えがあるのではないかと思いますが、何かに登録しようとして、項目30個すべて入力しなければならないとしたら、「めんどくさい!」って思いますよね。こういったことをユーザーの体験、ユーザー・エクスペリエンスと言います。

たとえばゲームをしているときに、やたらと長い通信が続くとか、ゲームの流れやつながりが悪い、気持ち悪いなとか、そういうのを「UXが悪い」という表現をします。

見た目以外にも、実際に使っていているときの使い心地が良いかどうか。アプリを使っている人が期待している挙動を、きちんと示してくれているかどうか。こういったものが、UX、ユーザー・エクスペリエンスということです。

田中:出谷さんが最近、お勧めというか、驚いたUI/UXというのがあれば教えていただけますか?

出谷:UXに関して、私が一番すごいなと思ったアプリが、実はTinderなんです。私が出会い系アプリをやっていることをバラしているようで、みなさんの前で言うのは、非常にはずかしいですけれど(笑)。

田中:ザッカーバーグが、フェイスブックを起ち上げる前、もともとハーバード大学内で人気投票のようなものをやろうとして、最初Tinderのようなものをつくったんでしたよね。

出谷:実際出会いを求めて使っていたわけではなく、上場企業の立ち上げ時にUI/UXに関わる仕事をしていた時、TinderのUXは「革命」だと言われていました。

画面をシュッ、シュッとスワイプするのですが、異性の写真がどんどん出てくるわけです。相手の写真を右側にシュッとスワイプすると「あり」、左側にスワイプすると「なし」というふうに自動的に仕分けしてくれる。

Tinderが日本に入ってくるまで、ああいうふうに画面をシュッ、シュッとスワイプできる機能をもったスマホのアプリケーションはありませんでしたから。当時、面白くて、会社の業務時間中に、シュッ、シュッとやってました。(笑)

いまの出会い系アプリを含むモバイルアプリUXでは、これが普通になっていますが、同時はなかった。例えばこういうものが、まさにナイスUXという世界観になります。

まあ、ここまでの話を聞きながら、おそらくみなさんは、私のことをすごい人だなと思ってくれているかもしれません。京大に入って、大学院時代には化学で特許をとり、仕事もバリバリやって、会社もつくり、日本人だけではなく海外の人たちとも働いて、世界を目指していると。

なのでここからは、私の人生について、少し赤裸々に話そうかなと思います。今のみなさんから見たら、割とキラキラしているように見えると思いますが、私がみなさんと同じ20歳くらいのときに、何をやっていたかという話をしていきます。

後編に続きます。

(松隈勝之)