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俳優・映画監督 伊勢谷友介 経営者としての取り組みと、その志とは

2018年1月14日、株式会社LIFULLが主催するイベント「LEAP」が開催されました。今回はその「LEAP」の1セッション、クロージングセッションの内容をお届けします。登壇したのは、株式会社LIFULL代表取締役社長 井上高志(いのうえ・たかし)さん、そして、俳優、映画監督として有名ながら、経営者としての顔も持つ、リバースプロジェクト代表 伊勢谷友介(いせや・ゆうすけ)さん。 お二人の語る「志」とは。全ての就活生必見です。

伊勢谷氏が、「経営者」の道を選んだ理由

井上:まずは伊勢谷さんから自己紹介をお願いします。

伊勢谷:伊勢谷友介と申します。皆さんよろしくお願いします。

俳優をやっております。ブラインドネスという海外の作品や、あしたのジョーというボクシングの映画に出演いたしました。

また、ドラマはほとんど出演したことがなかったのですが、大河ドラマで高杉晋作や吉田松陰という役をやらせていただいたりもしました。

井上:「花燃ゆ」は毎週正座で見ていました(笑)すごい演技でしたね。

伊勢谷:「花燃ゆ」は、私の方から出させてくださいと働きかけていまして。

というのも、「花燃ゆ」は「志」が重要な物語。私が代表取締役を務めるリバースプロジェクトでも「志」を一番大事にしているんですね。

「志」の解釈は人それぞれ違うかもしれませんが、その観点からリバースプロジェクトの紹介をしたいと思います。

井上:最後のトークセッションのテーマは「志」です。ぜひ伊勢谷さんから、色々な話をお伺いしたいと思います。

伊勢谷:リバースプロジェクトを直訳すると「再び生まれるプロジェクト」という意味です。

まずは、リバースプロジェクトとは何か、なぜ会社を立ち上げたのかについてお話をしたいと思います。

僕はビジネス経験がなくて、アートを志していた人間です。ただ、どんなことをしようかと考えていくと、解決策がだんだんビジネス寄りになっていきました。

そもそも「アートとは何だ?」と考えていたんですね。

「なんで僕は生まれたんだろう」なんて考えるわけです。

そうすると自分は人間だということは知っているけれども、なぜ人間として生きているのかはわからない。それをたくさん考えました。

正義のために生きている、と考えたりしましたが、正義がぶつかり合うこともありますよね。両者に正義があって、ある人にとっては正義でも、ある人にとっては悪だったりします。自分も、誰かから見たら悪になるかもしれない。

では、良心のために生きているのだろうか。

では良心の基準って何だろう? なんとなく「人を助けたい」という気持ちがあるということはわかります。

でも「良いこと」をしたいと考えると、「良い」ということの定義が曖昧だったりします。

誰しもが「良い」と思えることってなんだろうと考えると、「地球を存続させること」、ひいては「人間を存続させること」なんじゃないかと。

そうであれば、まずは地球を存続させ、人類を存続させることを「生きる目的」としようと思いました。

では、自分はどういう風に行動しようかと考えた時に、周囲を見渡してみると、今の社会は資本主義社会です。

誰もがお金を一番に信用している。お金が自分を幸せにしてくれると、みんなが勘違いしているのではないか。

つまり、資本主義という大きな社会の中では「お金」に対する欲求が僕らの行動原理になっているのではないかと思いました。

今の経済循環は、人類にとってより良い未来を作ろうとしているのではなくて、もしかしたら会社の社長や役員が、それぞれの懐を温めるためだけに経済を動かしている場合がある。

そんな中、お金のためではなく、みんなが人類にとってより良い未来を作れるように活動できるような社会を作っていきたいと考えました。

もちろん、資本主義の中で自分が大きな影響を与えるためには、資本・お金が必要です。それを担保するために株式会社を作って、「人類が地球に生き残るためには」を考え、行動する、そんなチームを作りました。

それが、私がリバースプロジェクトを立ち上げた経緯になります。

井上:ちなみにその「何で生きているのだろう?」といった問いは学生時代から考えていたのですか?

伊勢谷:そうですね。

井上:皆さんも20歳ぐらいになると一回くらいは考えますよね?「自分はなぜ生きているんだろう?」って。今日の登壇者の中には小学生の時から考えている人もいました。

伊勢谷:僕は若いときには答えが見つからなかったんです。でも、先ほどお話をしたように、 アーティストとしてやれることは何かと考えた時、その答えが見つかりました。

アートの技術とは「生きるための技術」。ということは、僕がやらなければならないことは、人類が地球に生き残るための技術を現代に残すこと。

それで作ったのがリバースプロジェクトです。リバースプロジェクトは「人類を地球に存続させること」でもあり、僕の現代美術でもあると言えるでしょう。

井上:伊勢谷さん以外にも、俳優という本業がありながら経営者として会社を立ち上げている方もいらっしゃるんでしょうか?

伊勢谷:内容を詳しく知っているわけではないですが、 たまにお見かけしますね。

井上:伊勢谷さんに影響を受けている方が出てきているんでしょうね。

伊勢谷:そこまでおこがましくは思っていないですが、僕の経験から何か伝わるものがあればいいかなと思います。

なぜかというと、僕は若い頃、映画監督としても作品を作らせていただきましたが、「俳優と監督をやるなんて、二足の草鞋だよ」なんて嫌味を言われる時代だったんです。

僕も大学時代「うまくいかないよ」なんて散々言われました。でも今では俳優と映画監督だけではなく、経営者もやっています。

そういった生き方もあるんだ、人に何を言われようと成果が出せるんだ、というサンプルを見せたいという思いもありますね。

リバースプロジェクトの取り組み

伊勢谷:さて、ここからは、どんなことをやっている会社かということについてお話をしましょう。

今、人間がどういう生き方をしているかというと、人間が必要とする資源が、地球のキャパシティを超えてしまっているんです。定量的に言うと、地球2.5個分の資源が必要だと言われています。

多くの人は意識することなく、地球のリソースを使いつぶしていっている。その意識の低さは、地球を存続させる上で壁になります。

とはいえ、徐々にそういった意識も世界レベルで向上しています。皆が少しでもそういった意識を持ってくれれば、次のビジネスを作れるチャンスがある。

では、どうするかというと、2.5個分の資源を使うのではなく、地球1個分で生活ができるような村を創りたいと思っています。

その村をつくり、資源を、地球を守っていくために「衣食住」の分野からライフスタイルを提案したり、「教育」「芸術」といった分野での啓蒙活動を行なったりしているのが我々の会社です。

近年、ようやく国連が「SDGs」すなわち「持続可能な開発目標」という数値的目標を掲げてくれました。そのうちの1つがまさに、地球の資源を浪費せず、将来の世代に残していけるのかという指標です。

我々の具体的なアクションとしては、 廃材や、未来でも生産を継続することができるような新しい素材から商品を作ったり、移動にも資源が必要ですから、できるだけ移動をさせず日本国内で生産、販売をしたりしています。

例えばですが、廃棄車両からでるエアバッグ・シートベルトの廃材を使用して衣類を作ったりしています。

こういった活動を通じて、消費の選択肢を皆さんに提案していく。その上で、地球は、我々は、持続可能な開発という問題を抱えているんだという点に気づいてもらい、問題意識を持ってもらう。それがこのプロジェクトです。

僕は消費の選択肢を皆さんに提供すると考えました。皆さんに未来の選択肢がないと、皆さんに選択したい気持ちはあっても、消費者だから悪い方に加担してしまう。だとしたら消費の提案というのが一番簡単な方法でした。

他のプロジェクトでいうと、バングラデシュでのプロジェクトがあります。

バングラデシュは今、ファストファッションの生産拠点として大きな存在になっています。いろんなメーカーが工場を建てて、現地の労働者を雇っています。

でも、その工場で大事故が起きてしまったんですね。

井上:そうですね、ビルが崩落してものすごい数の死者が出ましたね。

伊勢谷:工場の環境が非常に悪くて、耐震の作りもなかったんです。

我々のプロジェクトは、その環境をより良いものにしたいと。あまりに効率ばかりを考えるのではなく、 公正な労働環境でモチベーション高く仕事をしていただく。

そして、そこで作ってもらったTシャツができると、労働者に一部寄付が行く仕組みで、彼らのより良い労働環境、より良い生活のフォローをしていく、ということに取り組んでいます。

ただ、そういうことをやっていても、なかなかドラスティックに社会の消費が変わるわけではありません。

そこで、プロジェクトを大きく広げようと取り組んでいるのが、大きな企業との取り組みです。

例えば、ニッポンレンタカーさんと協力させていただき、営業所で着る制服を我々がプロデュースすることに。企業さんにとっては、質の高い制服を利用していただく他、会社の顔にもなりますと。

そうやって、大規模に活動を広げていく取り組みも行なっていますね。

あとは、どんどんと挙げていってしまいますが、「食」への領域も取り組んでいますね。

農家の皆さんが野菜を育てていますが、そのうちの5-8%は「規格」から外れて、市場で商品として取扱えないものになり、腐って捨てられてしまったりしています。

せっかく育てた野菜や、野菜を育てるのに使った資源が無駄になってしまっているわけです。

では、それを商品として取り扱えばいいのでは、と思うのですが、規格外の市場に出そうとすると、安価で扱わなくてはならないんです。

そうすると、規格内の価格の値段も下がってしまって、農家全体がダメージを被ることも考えられるのです。

その無駄を無くすためにどうすればいいかと言うと、カット野菜にして、大きな会社の社食として、市場を通さずに卸売をすることにしたんです。

そして、会社さんが買ってくれた野菜一食の内一部を子供の貧困解決のために寄付する。

元々は腐ってしまって、ゴミになっていた野菜が誰かの栄養となって、その一部のお金が次の世代を担う教育などに使われていく、そんな取り組みをしています。

そういった「仕組み」作りに力を入れています。「仕組み」を作れば、僕ら自身はそこまで体力がなくても、数値的には大きく変化していくんですね。

あとは教育事業「松下村塾リバースプロジェクト」です。この教育で教えるのは「志」、まさに我々の考えの根底にある部分です。

先ほどもお話をしましたが、我々が掲げる「志」とは何かというと「皆さんが生きている理由」です。そして、その目的は「人類の存続」であると。

それを理解し、共感していただいた上で、今度は「人類の存続」のために、社会課題を解決していこう、ということを教育していきます。

まずは、どんな社会課題を解決するのか。なぜそれが起きてしまっているんだろうか。

そしてそれを解決するために、どんな行動をとるか、どんな手法やどんな技術を使うか、それを知っていただき、実際に社会課題を解決していこう、ということを松下村塾ではやっています。

これは、まさに我々が生業としていることです。先ほどの「衣」「食」への取り組みも、まさにこういった流れで取り組んでいるんですね。

リバースプロジェクトの取り組み

伊勢谷:さて、本当に様々ご紹介をしてしまいましたが、このように会社を経営しております。

ただ、この経営方針が正しいかどうかはわかりません。

僕は元々芸大生でビジネスのノウハウもわからず、ビジネスなんかそっちのけで、まずは自分の人生の意味、志を見つけ、それを行動に移そうと動きだしました。

たくさんの事業があって、たくさんの会社があって、様々なアプローチから社会課題を解決する。

そうするよりも、もしかしたらスタッフを一点集中して、一つの事業を推し進めた方が、効率はいいかもしれません。

ただ僕のやり方でも、一つひとつの事業にきちんと代表者がついて、その人が事業を大きく広げていく、そういった可能性はまだまだあると思っています。

すると、僕らはたくさん人手が必要なんですね。

「社会の課題を解決するんだ」という志に共感してくれる方、そして、 それを実際に解決しようとたくさん考えて、実行する人が増えてくれればと思っています。

先ほどの教育事業も、そういった人を増やしたいと思って運営をしています。

我々の会社も、まだまだ仲間を集めていますし、私の話に共感をいただいた方は、ぜひ検索して、インターンにも応募をしてください。

すごく長くなってしまいましたが、これで自己紹介を終わりにします。